軍隊に入ってから、こんな表情を見たのは、三度目だった。

一度目は、休暇中、メンバーやそれぞれのマネージャー達との飲み会。
マスクを外しもせず、疲れきった表情を見せた。
それが、絆を信じる人達からすれば、「夜の10時になれば眠くなるから」という言い訳。

久しぶりに会えたなら、普通はもっと違う表情を見せるのではないのか。
まるでとってつけたような、はしゃぎようの公式動画には、サングラスを外さない彼の顔があった。
ファンに見せる為に撮っただろうに…

二度目は、国家斉唱の時だった。
あの目は、緊張しただけの理由だったのだろうか。
色のない目をしていた。
確かに緊張していた。でもそれだけなのだろうか。
心が動かず、唯、機械的に歌っている。
そんな表情だった。

そして三度目。

彼の表情は死んでいた。
心をあえて動かさないようにしている。
何を見ても、何を聴いても、何も感じないようにしている。
表彰式であのような表情を見せたこともあのように客席にお辞儀もせずに背を向けるようなことも今までは一度もしたことがなかったはずだ。
いつも誰よりも最初に、誰よりも深く丁寧に、最後までお辞儀をしてきた彼だった。

彼は、その目の色に全ての表情が現れる。
今でこそ、その特性を生かして、「瞳で演技する」と言われるが、彼の瞳の色を見ていれば、その時の彼の心が見える。

素の彼が見える。

そんな時、私はいつも彼に初めて出会ったステージを思い出す。

5年前、THANKSの最初のステージ。大阪の初日。
私は何のために彼を見に行ったのだろう。
ただ確かめたかった。
あの頃、あちこちのネットで叩かれ始めていた彼。
最初の頃の大義名分は消え、たった一人、恵まれた環境の中で、日本で活動することによって、ファンの嫉妬を一心に浴びていた。
彼のファンだというブロガーがこぞって、彼を批判し始めていた。

彼が何をしたというのか…
ただ一人、残って日本で仕事をしていただけだ。
他のメンバーが次々と韓国での仕事を選ぶ中、彼らの仕事に被らないように、日本の仕事を選んだだけだった。
それが、他のメンバーファンの一斉砲火を浴びる結果となった。
彼だけが余りにもTVでの露出が多かったからか…

一斉に彼を批難する記事の中、私は確かめたかった。
彼がどんな人なのか。
本当にあちこちに書かれているような人間なのかどうか。
いい気になっている。自分さえ売れればいいのか。メンバーの犠牲の上に成り立っている…
まるで、5人がダメになった原因は全て彼一人の責任のように書かれた。
ファンというブロガーが、彼のビジュアルを絶賛しながら、最終的に彼を堕とすという記事をどれだけ読んだかわからない。
自分で確かめたかった。

目は、口ほどに物を言い…

THANKSのステージ。
そこに立つ彼の瞳は、溢れんばかりの大粒の涙で濡れていた。

言葉は何もいらなかった。

どんな言葉も必要なかった。

瞳の色だけが全てだった。

彼は嘘をついていない。

誠実。

それ以外に言葉は浮かばなかった。

二ヶ月後のa-nation
初日の大阪のステージから味スタのラストステージまで、彼の瞳の色は悲しみに包まれたままだった。
それが日活打ち切りを語っていたのに気づかないのは、ファンだけだった。

ひたちなかのステージ。

今でも忘れられない彼の瞳の色がある。

初めて披露したソロのOST.

彼の瞳は不安な色に染まっていた。
何の為にそんな色合いを見せるのか…

その答は、その後起こったことに全てある。
やっとの思いで実現した日本のステージ。
確かに外圧はあった。けれどもそれを余りある内圧があったことの方が大きかった。
直前まで、ステージが実現するかは、確定されていなかった。
それが、その後の事務所の全ての始まりでもあった。

いつも彼の瞳の色に彼の心も、何が起きているかも映し出されている。

軍隊に入って半年余り。
いつも緊張の色は見えても、死人のような無表情な色は一度も映らなかった。

また、何かが起きているのかもしれない。

ただ、私達が知らないだけなのだ。