彼からメンバーシップで公開されるためにメンバーに届けられた手紙の映像を観ながら、何が可笑しいのだろう、と思った。
彼の手紙には、軍務中、どんな時もファンのことを思い出す。ファンのことを考える、と書かれていた。
その手紙を笑いながら読み、会場のファンも同じように笑っているのを見ながら、「何がおかしいのだろう」と素朴な疑問が沸いた。
そこには、彼の真摯な切ないほどの心情の吐露しか書かれていなかった。しんみりした内容になってしまったのを自ら茶化すように、最後はユーモアで締めくくられていたが、その手紙のどこがそんなに可笑しいのか理解出来なかった。

「ファンに会いたい」
その気持ちを自分の軍務生活の中で、どのような局面で感じるのか。
「会いたいのに会えない」
そんな切ない心情を綴った文章が、そんなに可笑しいものなのか。

その映像を観ながら、不愉快でしかなかった。

感覚が違うのだろうか。
同じ日本人のファンとして、会場でメンバーと同じように笑ったファンの気持ちもまったく理解できなかった。笑ったのは、ジェジュンペンではないのか。
もし、そうであるなら、これから自分の好きなメンバーが軍隊に行き、同じようにファンのことを思って切ない心情の手紙を公開したとき、ジェジュンの時と同じように笑えばいい。

軍隊という限られた空間の中で、必死に軍務を果たしながら、毎日を過ごしている人の気持ちを笑えるのか。
私には、全く理解できなかった。

彼の手紙を読みながら、彼が軍楽隊に配備され、少しでも音楽に触れる環境にあることはいいと思ったのは、私の浅はかな考えだったと気づいた。
軍楽隊という場所で、いつでも音楽に触れる環境にあるということは、いつでも軍のイベントに歌手として駆り出されることだと気づいた。

「軍の中での現実と軍の外での現実がごっちゃになって1日だけ気持ちが大変だった」という彼の手紙からは、光復節で、一日だけ歌手に戻され、自分が普段置かれている環境や、軍人としての感覚から、突然、芸能界の歌手としての感覚に引き戻された違和感との戦いが大変だったことを感じさせた。

すっかり軍人の身体になってしまった彼は、身体つきだけでなく、感覚もすっかり軍人になってしまっているのだろう。
それぐらい、日々の中で、必死に軍人として生きている彼の姿が見えてくる。
多くの画像を撮られ、サインを求められても、一切拒否しないのは、拒否しないことだけが、軍隊の中で、自分を守る術だと悟っているからだろう。

トップアイドルである彼は、いつも周囲の注視に晒され、言動も注目される。
どこにいても、気を抜く場所もなければ、くつろげる瞬間もないだろう。
常に品行方正で、何事にも気を抜かず、感情をコントロールして、どんなに嫌なことでも、気持ちが乗らないことでも、そんなそぶりは一切見せずに、他人と接しなければならないだろう。
そうでなければ、何を言われるかわからない。
ただでさえ、芸能人は優遇されていると嫉妬や醜い感情の餌食になりやすい。
誰からも批判されないように、模範となるあり方をしていなければ、自分のポジションを保つことはできない。

「軍務がとてもつらい……」
そう言った彼の言葉からは、張り詰めて毎日の軍務を熟す彼の姿しか見えてこない。

何十人もの兵士に差し入れをしたとか、光復節コンサートの出演者全員に差し入れをしたとかという美談も、彼が自ら申し出たのではないだろう。
単に一等兵である彼が、そんな申し出を自らできるはずがない。
上官から、差し入れをするものだとでもアドバイスされたのか、差し入れをしろと命令されたのでもなければ、上等兵の多くいる場所で、自分の経済力を誇示していると誤解されかねない行為を自らするわけがない。

空港の税関でさえ、賄賂や金品でどうにでもなるようなお国柄だ。
普段、そういうものから最も遠く離れたスタンスを持つ彼が、軍隊で自らそのような申し出をし、自らを危険に晒すようなことは絶対にしないだろうと想像出来た。

彼を手にいれた軍隊は、彼をこれから使えるだけ使うだろう。
「歌わせてやる」という恩義の下に、どれだけのイベントに駆り出されるかわからない。
「一人の軍人として、一人のふつうの韓国の若者に戻って、軍務を果たしたい」と言った彼の希望は、かなえられそうにない。
彼が、軍務を熟し、軍人としての感覚に慣れ、軍人として生きていこうとするのをあざ笑うかのように、次々と「軍務」という名の客寄せ商売に利用されるだろう。
その度に、彼は、自分の中にある歌手としての感覚を呼び戻し、軍人の感覚との中で、アンバランスな日常を過ごしていくことになる。

地上軍フェスタに駆り出され、期間5日間、毎日出演し、さらに世界軍人体育大会でも歌わされる彼は、完全に軍隊のイベントの客寄せパンダだ。
いくら彼のファンであっても、韓国軍のイベントに彼を観たさに出かける日本ファンはいないだろうと思っていたのは、大きな誤解だった。
日本人であっても、平気で韓国軍のイベントに出かけるファンがいるから、チケット代行業者は、いち早く予約業務に乗り出したのだろう。
彼が見れるのであれば、反日イベントであろうが、平気なのだろう。その感覚も私には理解できない。

「韓国には来ないでね」
と言った彼は、自分が軍隊で反日イベントに駆り出されるのも、反日のシンボルにされるのも、反日ソングを歌わされるのも、覚悟していたのかもしれない。
自分の身を守る方法は、命令に逆らわないことだ。
どんなに彼が日本を思い、日本を恋しがり、日本ファンのことを思っても、決して口には出せない。
おくびにも出さず、反日感情の渦巻く環境の中で、時には積極的に同調を求められることもあるだろう。
そんな時でも、日本のファンは自分のことを信じて待ってくれるだろうか。
そんな不安な気持ちを抱えているからこそ、「僕、軍務を本当に頑張ってるよ。だから忘れないで」と日本ファンミを開いたメンバーにわざわざ言伝を頼んだのだろう。

そんなぎりぎりのところで、彼は生きている。
そして、まだ、484日もあるのだ。

追記

軍楽隊に配備されたということは、決して楽な部署でもなんでもない。
Kの本にその部分の詳細がある。

軍楽隊は、一般の軍務を普通にこなして、それ以外の役割として軍楽隊の任務をこなす。
当然、楽器の練習などは、自分の休憩時間や休日を返上して行う。
また、イベントは週末に開催されることが多いため、休暇は当然つぶれる。

彼も手紙の中で書くように、
朝の二時間の警ら任務も、夜の見張りも、草抜きの任務も当然、他の兵隊たちと同じようにこなす。その上での軍楽隊の任務だ。
だから、彼は「軍務がとてもつらい」と書いたのかもしれない。
それでも、彼は、入隊する何年も前から、時間があれば、ジムに通い、基礎体力を鍛え、走りこんで下半身を鍛えてきた。自分の身体を厳しく管理してきたのだ。
そのベースがあるからこそ、芸能生活から軍隊生活に入り、本部隊に配属されても、十分通用するのだろう。

基礎訓練を受けた訓練兵の5週間は、ただ、軍人になるための訓練を熟していけばよかった。指導教官以外、上官もいなければ、みな、同じ釜の飯を食う仲間たちだ。横一線の人間関係の中で、与えられた訓練に一生懸命に取り組めばよかった。

しかし、本部隊はまったく違う。
上等兵だけでなく、職業軍人もいる。
その人間関係は実に複雑だ。
そして、彼はたった一人、55師団に配備された。
同じ体験をし、心を許しあえる仲間は一人もいない。
そんな中での軍務であり、軍楽隊だということを忘れてはならない。

今、彼は選抜されて陸軍フェスタの合宿中だ。
芸能兵士のなくなった今、フェスタは重要な広報活動の一つである。
イベントのようにただ、歌を歌うのではなく、反日、抗日戦争の演目をミュージカルで上演する可能性もなきにしもあらずだ。

もちろん、合宿中もふつうの任務は当然ある。
軍本部に場所が移っただけの話だ。
そして、歌えるからと言って、彼が望まない、歌いたくもない歌も歌わされる可能性は十分にあるのだ。

彼が歌う姿を観て、カッコイイと思う前に、その姿を見せるために彼がどれほどの精神的、肉体的犠牲と努力を払っているのかを知るべきだろう。

少なくとも彼のファンであるのなら、彼の軍務を通して、韓国軍の実態を知っておきたいと思う。

実態を知れば、彼がどれぐらいギリギリの精神状態で過ごしているかが想像できるだろう。