ジェジュンの3年間の日本活動をファンという視点から離れてみた時、浮かび上がってくるイメージは、「JPOPカバーの上手い韓国人歌手」という評価だろう。

これは、私個人の評価というよりは、私が所属しているミュージック・ペンクラブの評論家に聞いた感想だ。

これがファンでない一般の専門家の評価と言えるのかもしれない。

 

どのアーティストでも同じだと思うが、ファン社会にいると、一種のフィルターがかかった状態になる。

そういうコアなファンがいるからこそ、歌手はやっていけるのだが、その評価だけの世界にいると、歌手自身の進化を阻む結果を招くことにもなりかねない。

歌手は、常に進化していくことが、長く安定したファン層の獲得と安定した活動には欠かせない。

それはなぜかと言えば、同じイメージを見せ続けられると人は飽きてしまうからである。

どんなにそれが素晴らしいものであっても、同じような音楽や楽曲、さらには同じようなイメージでのパフォーマンスを見せ続けられると、どんなに好きな歌手であっても、多くの人は飽きてしまう。

これが、デビュー曲で大ヒットした時の2曲目の難しさでもある。

多くはデビュー曲でのイメージを大きく逸脱しないようなものを用意するが、デビュー曲を超えるものは生まれてこない。なぜなら、プロデュース側は、ヒットしたイメージを守ろうとするのに対し、聴衆側は、デビューイメージに対しては満腹で別のものを求めているからだ。

これは、デビュー曲が鮮烈であればあるほど、その傾向が強い。

次の曲がヒットするには、大きくイメージの転換、または楽曲カテゴリーの転換、歌手の進化などが求められる。

しかし、これはせっかく掴んだファンを失うかもしれないという危険性も孕んでいる。その為、多くの場合、ある種のイメージが固定化し、ファン層が固定化するまでは、そのような冒険に出ない。

 

これらのことをジェジュンに当てはめた場合、彼のイメージは、東方神起時代のイメージをそのまま継承するものであり、現在のファン層の大部分は彼の東方神起時代からのファンである可能性が高く、強固でコアな層によって占められていると考えられる。

これらの状況を十分意識した形でのソロ活動であり、イメージ戦略に乗っ取って活動は行われている。

しかし、東方神起時代は10代後半から20代前半の活動であり、その後のJYJでの歌手活動はほぼ皆無に近い状況から考えると、30代半ばに差し掛かった彼は、今後、イメージの脱却、またカテゴリーの転換を図っていく事が早急の課題になる。

 

8年の空白期間の後に手に入れた日本活動は、ほぼ彼が望む形で実現したと言える。

バラエティー番組や準レギュラーとしてのラジオ番組、各種の音楽番組への出演、さらには女性誌や週刊誌、アイドル雑誌などへの露出を経て、かつての東方神起時代のファン層の取り込みは、ほぼ成功したと言っていい。

8年のブランクを経てもなお、彼のイメージはほぼ変わらない。

しかし、4年目を迎え、35歳という年代を考える時、今までと同じイメージ、同じ戦略で売り続けるには無理がある。

30代は、男性歌手にとって、一つの分岐点になる。

それは肉体的成熟、加齢による声帯機能の変化、さらにはイメージの固定化である。

デビュー17周年を迎えた歌手としても、今後、ソロ歌手として大きく活躍していくには、今までのイメージの引き出し以外に、別の引き出しが必要なのである。

 

日本活動3年間で出した彼の楽曲を見ると、多くが彼の得意とするジャンル、即ち、ロック、R&B、バラードというものにカテゴライズされ、それ以外のジャンルの音楽はほぼ見当たらない。

その中で僅かに彼の新しい方向性を感じる楽曲が「BRAVA BRAVA BRAVA」である。

この曲は、作詞:伊秩弘将 作曲:FAST LANE, ANGUS COSTANZA 編曲:FAST LANEというものだが、今までの彼の曲にはない軽妙で、明るいタッチの楽曲である。

派手な振り付けのMVばかりに目を奪われがちだが、楽曲としては、非常に面白く、彼の新しい音楽性を大いに引き出している。

この楽曲はケイダッシュ系のクリエイターの楽曲ではなく、それまでの彼のイメージとは違った雰囲気を醸し出している。

4月の騒動がなければ、間違いなくこの曲はもう少し話題に登っていたはずであり、そういう面では非常に残念だ。

 

ジェジュンという歌手の持ち味は、バラード系の曲で発揮されることが多い。

これは、彼の持ち声が甘美で綺麗な響きをしている為に、その歌声を十分聴かせるには、スローテンポなバラードが打ってつけの為である。しかし、これらのジャンルから脱却し、新しい音楽を提示していくこと、新しい姿を見せていくことが、新しいファン層の獲得に繋がり、さらには彼自身のイメージの転換にも必要であると感じる。

 

最近のJPOPの傾向は、ボーカロイドからの流れを汲むハイトーンボイスの高速メロディーラインを使った楽曲が好まれる傾向にある。

米津玄師を筆頭として発展してきたボーカロイドのジャンルは、アニソンを主体としたJPOPの新しい音楽でもあり、アップテンポの音楽は、緩急のない日本語に上手く音楽的要素を与えている。

ボーカロイドのクリエイターには若い世代のミュージシャンが多く、新しい感覚で日本語と音楽の融合を図る。

先日、レビューしたYOASOBIのAyaseもこのボーカロイドクリエイターの一人だ。

 

私はこれらの音楽をジェジュンが取り入れると、面白いものが出来上がるような気がする。

ボーカロイドの歌は、アップテンポの高速メロディーが多い。

韓国人の彼の日本語のタンギングは、高速になると子音が尖って、返って鮮明になる面があり、

これを彼が歌いこなす事によって、今までの彼の歌声にない新しい色が加わることになるようにも思う。

また、ボーカロイドだけでなく、ケイダッシュ系以外のアーティストやクリエイターとコラボすることで、彼の違った面が引き出される可能性は大いにある。

 

いずれにしても4年目の今年。

ここからが、彼の本当の意味でのスタートだと私は思う。

歌手ジェジュンが進化し続けれるかどうかは、新しい彼のイメージを作り出せるかにかかっている。

 

歌えない環境から、いつでも歌える環境を手に入れた今。

彼の本当の意味でのミュージシャンとしての活動は始まろうとしている。

「JPOPカバーの上手い韓国人歌手」というイメージからの脱却には、彼ならではのスペシャルなものが必要だ。

「ジェジュンと言えば〇〇」と言えるだけのオリジナルな代表曲が欲しい。

それが彼のイメージの脱却の第一歩となるだろう。

そんな楽曲との出会いを期待している。